夕日浴び悶え燃え立つ銀杏かな
銀杏樹の黄金の海を風わたる
土の精を吸うて狂おし夕紅葉
枯木立ナンキンハゼの玉光る
校庭のざわめき遠く冬薔薇
鳩ひょんひょん霙の舗石冷たかろ
ウイルスになって届くや恋心
金色の銀杏落ち葉のブリザード
冬天にクレーンの嘴突き刺さる
亡き父に似た人追うて冬の道
わが土の器購う人ありて
小春日のほろほろ温く子ら思う
艶めいた夢も見ぬなり布団干す
窓辺照らす友が秘伝のゼラニウム
秋天に児らはしゃぐ声カンと抜け
小さき足も雪舞う峠越え行くか
秋空のかなた空爆のカンダハル
秋刀魚焼くいつもの秋に翳りあり
木犀の香が追うてくる夜道かな
川霧にオール閃く明けの夢
秋夜長夢に校舎をさまよいぬ
胸中にビルの崩落続く夜
存在を根こそぎ揺する不安なり
何物に追い込まれたるこの狂気
駆け上りしFirefighterも戻らざる
トンネルの中にひんやり秋の駅
山の寺コンバイン遠くうなるのみ
本堂の小暗き隅に生臭が
月明に光る黄ゴケや無縁墓
百日紅落花追いかけ四軒掃く
風追うは空しきことよ立ちすくむ
昼寝から覚めて幽界見た気分
熱風の渦競輪場ジャンの音
打ち水をする家もなく午後灼ける
烈日のようよう落ちて冷酒注ぐ
闇に立つ白拍子かやおいらん草
汀里に
もののけに背を押され行く冬遍路
煩悩と二人時雨れて行く君か
知命なり観念せよと吹く吹雪
巣立ち
帰省の子のうと起き来て雑煮食う
旅籠屋か二日には早や去ぬる子ら
感冒や夢に来る子は幼な顔
那覇は晴れ東京は雪ほうやれほ
次郎かと振り返り見るラガーシャツ
若子らが巣立ちし部屋に冬日さす
子離れの難さ裸木凛と立つ
雪折れて裂け口白く倒るる木
雪ぐるま音無く廻る暗い空
寒の明け遺跡を抱いて土黒し
竹林の底に静まる遺溝かな
公達の館の跡にイヌフグリ
春寒や陶土冷たく指にしむ
ろくろひく手のかじかみに土揺れる
春宵
春の夕浅葱の空にあかね雲
水底に揺れる灯りもなまめいて
母君の身世打令や春の宵
回想の四月
臨月や春宵の土手夫と行く
こぼれ咲くあの花の下初子得し
ふうわりと花抱く心地児の温さ
遍路幻想
お遍路の笠に花散る霊山寺
地蔵寺の五百羅漢の腹の穴
極楽寺般若心経山笑う
恍惚の読経の声や大日寺
五月うるわし
深々と肺つらぬいて新樹の気
幾千の白い蝶舞う花みずき
棚田荒れ雑草を吹く若葉風
林蔭古き社に花ダイコン
新緑の林木洩れ日瑠璃降るや
碧玉を宙に撒いたる林かな
さやさやと銀杏やわらか若葉風
ふかふかの雲踏む心地落葉尾根
レイテ・サマール島吟行
宵闇に屋台の火揺れる船着き場
串焼きの獣脂たちこめ闇煙る
半孵化の卵も茹でて売られおり
潮待てぬ人あふれ乗るタグボート
トライシクルひらりひらりと行く雑踏
ペダルこぐ足細き子は2ペソ得ぬ
はしゃぎ出て児らスコールを顔に受け
市に並ぶ豚の頭の笑みており
ゲイの美女ハローと笑う昼の市
島人の心尽くしの宴に酔う
激戦の山に雲湧くレイテ島
夕映えを若き兵士は如何に見し
烈日のブーゲンの下兵斃る
愛し児の終の地も見ず生きる母
戦世の影なく樹下に遊ぶ児ら
セルラー持ち若者笑う花陰に
ナンジャモンジャの木
吐息のごとナンジャモンジャの花の降る
胸底にナンジャモンジャの花降り積む
かそけきはナンジャモンジャの花降る音
梅雨寒やパンジー静かに土に還る
鬱の日をごくん飲み干す麦酒かな
はや涅槃首の裏まで酔いの来て
クチナシの重き香はらみ涼風来る
梅雨眺む母のうなじの細さかな
ハリハリと西瓜糠漬けほの紅き
2001年