子ら去って佳き初春も九分を過ぎ
正月の後片付けや五目汁
雪雲を肩口に吐き山凍る
戦争がひた寄せてくる鬱の空
反戦のデモの傘打つ春時雨
人の盾にならんと若人ら出で発ちぬ
春雨の底に静まる夜の町
側溝の水もさやさや春めいて
去りかねて子ら群れる門卒業式
この春もまた夢追いの吾子なるか
新兵器に笑む高官やモンスター
老眼でプラカード書く春の暮れ
のったりと寝たる恐竜春の山
春灯や窓にうごめく影ふたつ
逢いびきに漂い出たき春の宵
逢いびきも春の憂いに味気なく
憂鬱を瞬時溶かすかデモの熱
捕われておののく米兵少年の顔
爆風に足もがれし子何ぞ解放
チグリスの川辺の草木も生きてあれ
りんりんと車椅子行く花の土手
母の笑顔胸に刻まん花吹雪
車椅子の母の重さの確かなる
花曇り非力非力やデモの列
野ざらしの骸砂嵐が埋めん
復讐は誰が手にありや無辜の死の
気もそぞろに若葉青葉もうち過ぎて
青梅を琥珀の酒に沈めたり
夢ひとつまた墜ち行きぬシージフォスよ
竹林の奥に深まる梅雨の闇
クチナシは爛熟の香に朽ちてゆき
雨を呑み紫陽花ぼったり身重なり
捨てられし鏡台覗く梅雨の空
百日紅ひっそり黙す冷夏かな
冷夏明けどっと湧き出る蝉時雨
汗一斗やっと夏来る嬉しさよ
蝉の声歓喜焦燥ともにあり
キチキチと虫鳴く宵や夏果てぬ
秋鮭に気合いこめたる子の弁当
吾子と飲むうま酒うまし秋夜長
野分過ぎ蝶の片羽落ちてあり
一陣の風乱舞さすホトトギス
小春日や売家の垣に名残り薔薇
里の秋谷底の村早や暮れて
留守の夫の気配残れる寝間の闇
沢に沿いさ霧たゆとう小塩山
寝間に満つる干し布団の香日の名残り
木犀の香も煮込みたりのっぺい汁