酔桃句集

子ら去って佳き初春も九分を過ぎ

正月の後片付けや五目汁

雪雲を肩口に吐き山凍る

戦争がひた寄せてくる鬱の空

反戦のデモの傘打つ春時雨

人の盾にならんと若人ら出で発ちぬ

2003年

春雨の底に静まる夜の町

側溝の水もさやさや春めいて

去りかねて子ら群れる門卒業式

この春もまた夢追いの吾子なるか

新兵器に笑む高官やモンスター

老眼でプラカード書く春の暮れ

のったりと寝たる恐竜春の山

春灯や窓にうごめく影ふたつ

逢いびきに漂い出たき春の宵

逢いびきも春の憂いに味気なく

憂鬱を瞬時溶かすかデモの熱

捕われておののく米兵少年の顔

爆風に足もがれし子何ぞ解放

チグリスの川辺の草木も生きてあれ

りんりんと車椅子行く花の土手

母の笑顔胸に刻まん花吹雪

車椅子の母の重さの確かなる

花曇り非力非力やデモの列

野ざらしの骸砂嵐が埋めん

復讐は誰が手にありや無辜の死の

気もそぞろに若葉青葉もうち過ぎて

青梅を琥珀の酒に沈めたり

夢ひとつまた墜ち行きぬシージフォスよ

 

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竹林の奥に深まる梅雨の闇

クチナシは爛熟の香に朽ちてゆき

雨を呑み紫陽花ぼったり身重なり

捨てられし鏡台覗く梅雨の空

百日紅ひっそり黙す冷夏かな

冷夏明けどっと湧き出る蝉時雨

汗一斗やっと夏来る嬉しさよ

蝉の声歓喜焦燥ともにあり

キチキチと虫鳴く宵や夏果てぬ

秋鮭に気合いこめたる子の弁当

吾子と飲むうま酒うまし秋夜長

野分過ぎ蝶の片羽落ちてあり

一陣の風乱舞さすホトトギス

小春日や売家の垣に名残り薔薇

里の秋谷底の村早や暮れて

留守の夫の気配残れる寝間の闇

沢に沿いさ霧たゆとう小塩山

寝間に満つる干し布団の香日の名残り

木犀の香も煮込みたりのっぺい汁

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